いぬごや

よくはたらくいぬです

新年

元旦の朝に寝ぼけながら仕込んだ愛すべきなーんにもしない正月を過ごしている。おいしいおせちと餅や日本酒、ストーブとこたつのある古民家に、人間以上になーんにもしない猫までいるからもう完璧だ。大晦日の夜は年越し蕎麦と天ぷらを作って食べた。天ぷら…

暮れの日

年明けの私のために台所だけは綺麗にした 12/21 ガラス製のマドラーを買った。ソーダ色とレモン色の2本。ねじねじの棒キャンディみたいな持ち手で、色味や気泡の具合まで飴にそっくりな見た目をしている。同じ作家さんが作ったマドラーをすでに何本か持って…

希薄

抜け殻のときほど水辺に近づく癖 カメラロールの一角に、すりガラスみたいな色をした薄曇りの海や、夜の更けた知らない街、都会から手近なそう綺麗でもない海が妙に集っている時期がある。5年ほど前だ。前の会社でおよそ2年目くらい。仕事を覚え始めて気持ち…

概念としてのチキンバスケット

チキンバスケットという食事がある。その名のとおりバスケットにフライドチキンやチキンカツ、からあげなどの鶏肉料理を主役として詰めたもので、そのほか店によってはポテトフライやトースト、茹で卵なんかが脇役として一緒に収まっている。私はこれが大好…

祝いの夕べ

クランベリーみたいに華やかでうまい赤ワイン12月になった途端、どんどん日が落ちるのが早くなっていく。昨日の夕方頃あまりに眠くなったので、マフラーを巻きつけて会社のビルの中庭に出て、空が藍色に暮れていくのをぼんやり眺めながらコンビニの豚まんを…

あの日の先にあったもの

前の冬ごろにやっていた、アセクシャルとアロマンティックを題材にしたドラマを全話続けて観た。ストーリーの結末はアロマ/アセクの生き方や選択というよりは、自分が本当にやりたいこと、家を守るという強迫観念、パートナーシップをどうするか、のみっつ…

肉を焼く、傷を埋める

土曜のこと 「魚屋でアジを買ったから今夜はアジフライ」「じゃがいもが安かったからコロッケにしよう」みたいな感じで、必要な食材をちょっとだけ(それも気まぐれで)手にいれて、それを随時料理して晩のおかずにするような身軽さによく憧れる。うちは食費…

緑のあかり

ファミレスには自由な夜のイメージがある。実家から通勤していた頃、短い一人の時間を少しでも満喫するためにバーミヤンでエビチリとレモンサワーだけを頼んだり、家の近くに友達が住んでいた時期は、徒歩圏内のサイゼリヤで深夜にデキャンタワインを飲んだ…

赤い飴を囓る

このりんご飴は当たりだった 毎日どんどん涼しく、空がパキリと澄んで高くなっていくのが気持ちいい。この週末はとくに予定がなかったので、発売を待ちかねていた本をベッドの脇に積みあげて次々読んだり、先日神社のお祭りで買っておいたりんご飴(冷やして…

最近の食事のこと

10月11日 徳島の田舎から届いた、讃岐うどんの打ちたて生麺をゆがいて釜玉うどんに。道の駅で買ったものらしい。大量の大根おろしと生卵を乗せて、刻み海苔をまぶし、すだちをたっぷり絞って食べた。丸亀製麺とか冷凍の讃岐うどんを日々よく食べているけど、…

秋の魚がからだに泳ぐ

ここ一年くらいで、急に身体が寿司のありがたさに気づいた。私の好物はカッと火が点くような中華料理やバターたっぷりの洋食で(点心や海老チリ、カニクリームコロッケとかラムチョップを心から愛してる)、もちろん寿司や刺身も喜んで食べていたけど、ちょ…

水の巡る生きもの

岩盤浴がすごく好きだ。冷房で凍りついた骨や筋肉が熱でゆるんで、体内で澱んでたいらないものが全部サラサラの汗に溶けて出ていって、全身がすっと軽くなる。サウナは裸でじっと座っていなければならないのがなんだか所在なくて、人よりあまり長時間入って…

トマトとにんにくと塩と

プランターで育ててるバジルを乗せた最近、よくトマトパスタを作る。うちでパスタを作るときはだいたいペペロンチーノかナポリタンの二択で(そこに稀に明太子パスタとか納豆パスタが入ってくる)、たとえば春にはペペロンチーノに菜の花をたっぷり入れたり…

晩夏の灯

顔を近づけてじっと見てると案外けむい昨夜、うちで線香花火をした。古民家みたいな戸建てに住んでいるので、手持ち花火ができるくらいのささやかな庭と縁側がある。庭は雑草生え放題であまり手入れできていないけど、縁側がすごく好きだ。フローリングと梁…

ハッカの香る家

薄荷という名の新しい猫を家に迎えた。海苔をまいたおにぎりみたいな柄をした、白黒模様の仔猫。うちの庭で生まれ育ったのを梅雨ごろからずっと見守っていて、そのうち保護して育ててもいいなと思っていたところ、とある夜にチャンスが飛び込んできて(とい…

豆花の夏

ボタニカル女が選挙へゆきます近所の工事現場の騒音にずっと悩まされている。大きい音が苦手な恋人が気の毒だったので、先日ちょっといい耳栓を贈った。冷房の効いた寝室で、それを耳に詰めてニコニコ快適そうにしている恋人とベッドに転がって、お互い本を…

飴玉の猫と暮らす

猫を飼い始めた。細くしなやかな三毛猫の姉妹。メスのどうぶつを飼ったことがなかったのでどんなものかと思っていたら、懐っこくて大胆で気まぐれで、人間を頼るのがうまく、甘えながらも澄ました表情を崩さない。実家で一緒に暮らしていたもっちり灰色のあ…

鶏をゆでて食べよう

鶏むね肉をしっとりむちむちのゆで鶏にするのが得意だ。たっぷりの水を鍋に張って、おろしにんにくと塩ひと振りに料理酒少し、葱の青いところ数本、鶏むね肉のかたまりを入れて中火にかける。コンロの近くに椅子を持ってきてぼんやりしたり食器を洗ったりし…

難破船の夜

とうとうコロナにかかってしまった。ワクチンだって打ったし、2年近く色んなことを我慢して行儀よく暮らしていたというのに。かかるときは本当にあっけない。恋人とふたりまとめて罹患したので、味がわからなくなった恋人が美味しく食べられるものをうんうん…

ひとりとひとりをやめた冬

これを履くと機嫌がよくなる思えば、生まれ季節の秋を私はずいぶんと好きだ。師走に向かって落ち着きをなくしはじめる一歩手前の、エアポケットのように穏やかな時期。いつもなら革靴を磨きだしたり、紅葉を見にいってみたりと呑気に暮らしているけれど、今…

水辺の夜

川のそばを歩きながら、夜がくるのを眺めるのが好きだ。真っ黒な水面が鈍色の鱗みたいにてらてらと光りだすのを見ていると、他人事のように俯瞰して思考を整理できる。一人で考えたり悩んだりするとき、私はたいてい水辺にいる。この秋、地元の幼馴染が式を…

岐路にたたずむ朝

いつかの日自分が今立っている場所のことを、たぶん世間一般的に人生の岐路と呼ぶんだろうな。あらゆる意味でそういう状況にある。シャッターでも閉めたかのように潔く夏が終わった途端、そのことにようやく気がついた。人生における重要な節目を迎えると、…

たてがみのない夜

年に一度、首が全部見えるほどに髪を短く切る。とくに離別とか決意とかそういう理由がともなうことはなく、単純に癖毛にうんざりする周期が年一で訪れるというだけの話だけど、着る服の系統をけっこうしっかりと変えなければいけないので、結果としてそれな…

骨つき肉の夜

ほとんど日陰のない家から駅までの道を、背中をかんかんに焼かれながら毎朝歩いている。うすいターコイズのポリッシュを塗った足の爪だけが涼しそうで、海とか川とか、水辺を恋しく思うことが増えた。下地のうえにさっと刷毛を滑らせただけの一度塗りが、う…

青磁を塗る夜

このところ、よく身体を動かすようになった。気軽に外に出て川沿いを何周も歩いたり、自転車で日が暮れるまでそこらを走りまわったりがなかなかできない雨季は、身体が錆びつくみたいでどうしたってしんどい。動画を調べて、背筋・腕・下腹・脚に効くストレ…

コックピットに佇む夜

台所に華奢な椅子を置いた。座面と背もたれがネイビー色で、うちのファブリック類や赤い冷蔵庫によく合う、脚の高い折り畳み椅子。細身で邪魔にならないので、畳まず食器棚のそばに席を設けてある。 私は台所にいる時間が長い。料理の手を動かしている時間と…

雨音のしない夜

仕事だけの人間がいかにつまらないかを知っている。そしてそういう人間は、得てしてそこまで仕事ができないことも知っている。そうはなりたくないから、人と過ごしたり、義務に駆られてではなく楽しんで料理や掃除をしたり、花を飾ったり植木に水をやったり…

遠雷の夜

毎日たくさん水を飲もう、と今朝急に思い立った。思い立ったまま2リットルペットボトルの水を買って、袋に入れてもらうのも億劫だったのでそのまま腕に抱っこして出社したら、並びの席の同僚ふたりがほぼ同じことをしていて笑ってしまった。昨日越してきた…

赤いスープの夜

夏が近いらしい。ここしばらくずっと、身体の不調をどうにか受け入れようと悪戦苦闘しているうちに、いつの間にか上着なしでも出かけられる季節になっていた。雨が降るから大好きな煉瓦色の革靴を履けないし、湿気で髪がかたくなに跳ねる。繰り返し丁寧に手…

いまさら春に気づく話

先日、いまの会社にきてちょうど2年が経った。年度末&年度頭およびゴールデンウィーク直前の繁忙期まっただなかにつき、たった2年ぽっちの間にいろいろありすぎるだろうと感慨に浸る暇もないくらいばたばたしていて、気がついたら5月になっていた。いつ…