いぬごや

よくはたらくいぬです

豆花の夏

ボタニカル女が選挙へゆきます

近所の工事現場の騒音にずっと悩まされている。大きい音が苦手な恋人が気の毒だったので、先日ちょっといい耳栓を贈った。冷房の効いた寝室で、それを耳に詰めてニコニコ快適そうにしている恋人とベッドに転がって、お互い本を読んだり好きなように過ごす。喋るときは耳もとの骨に口をつけるようにして話したけど、どうやら工事やエアコンの低音だけがうまく掻き消されて、私の声や猫の鳴き声はそれなりに聞こえるらしい。恋人が嫌なもののない世界にいることが嬉しいし、耳栓を贈れる関係性をいいなと思う。

この週末は、大きなバットで豆花(薄甘い豆腐のようなものをシロップに泳がせて食べる台湾のおやつ)を作ったり、元気が出なくて畳と一体化していたら恋人が塩パンを焼いてくれたり、サンドイッチを作ったときに余った耳で砂糖揚げパンを作ったり、互いに料理を色んな拠り所にして過ごした。ぼんやりしているうちに台所から手製のパンを焼く匂いが漂ってくる家、一生住んでいたい。恋人がたまに生地をこねてオーブンで焼くパンは、上にまぶした粗塩の粒がバターの風味のなかできちんと主張していて、とても美味しい。

豆花を作るのはなかなかよかった。豆乳に蜂蜜と粉ゼラチンを入れたものを冷やし固めて、ジャスミン茶ときび糖と生姜を煮詰めて作ったシロップに、大きなバットからすくった豆花をそっと泳がせる。店で食べると餡子やピーナッツのトッピングがたくさん乗っているけど、お茶のシロップだけで十分美味しかった。梅雨に仕込んだばかりのまだ若い梅シロップをかけて食べてみたら、先日一度発酵してしまった名残で(ホーロー鍋にあけて煮詰めてアクをとって実の空気を抜いてと大変だった)舌の上で少しシュワシュワと爆ぜた。でもそれも悪くない味にまとまり始めていて、安堵。

炎天下のなか恋人と夏のお洒落をして、きれいな靴を履いて、手を繋いで選挙の投票に行った。ラフな服装にスニーカーとかで行かないのは一種の意思表示なのかもしれない。郊外の一軒家で暮らしをともにして、同じポストから出した選挙のお知らせを持って会場に手を繋いでやってきて、投票が終わったらまた手を繋いで同じ家に帰っていく。それをこれからあと何回繰り返し続ければ、家族になれるんだろう。恋人が初めて会ったときと同じノースリーブのワンピースを着ていて、もうそんなに季節が巡ったのかと目を細めるような心地になった。