いぬごや

よくはたらくいぬです

水の巡る生きもの

岩盤浴がすごく好きだ。冷房で凍りついた骨や筋肉が熱でゆるんで、体内で澱んでたいらないものが全部サラサラの汗に溶けて出ていって、全身がすっと軽くなる。サウナは裸でじっと座っていなければならないのがなんだか所在なくて、人よりあまり長時間入っていられないけど、岩盤浴は寝転んでいるだけでいいからいくらでもいられる。休日出勤したぶんの代休があまっていたので、先日休みをとって大きなスパに出かけた。

肌に塩を塗りこむ塩サウナや岩盤浴にしっかり身体を預けると、すぐに水浴びをしたあとみたいな大粒の汗だくになる。こういうところでは水とかスポーツ飲料みたいな、血に近い純な飲み物を本能が求めるのがおもしろいな。冷たい水をごくごく飲んでつま先まで清涼な潤いで満たして、丸一日かけて気が済むまで熱や水分を循環させたあと、とてもプリミティブにお腹が空く感覚も気持ちいい。

スパで食べるものといえば、天ざるうどん一択。館内着の甚平みたいなのを着て掘りごたつの座敷でくつろぐとき、小鉢をちまちまつつく御膳とか、フォークで食べるファミレスっぽいメニューはなんだか違うなと思う(フライドポテトやアメリカンドッグなんかのチープなホットスナックは売店でよくつまんでしまうけど…)。氷でキュッと締められた冷たい稲庭うどんを噛み締めて、火照った喉につるんと流し込む。揚げたて熱々の海老やかぼちゃの天ぷらをその合間で頬張ると、冷えた舌にジュウと火がついたような心地になるのがいい。そこにビールをぐっぐっぐと流せば完璧だ。麺をうまく啜れない恋人は、とろろをかけた冷やしきつねうどんを嬉しそうに頬張っていた。

お腹いっぱいになったあと、最後にひと風呂浴びてからテラスのハンモックに寝転ぶ。身体に巡る新しい水も一緒にタプタプ揺れるイメージ。この夜は中秋の名月に近くて、真珠みたいに白く光る満月がとてもきれいに見えた。パタリと音がやむように夏が終わって秋がくる。今年の夏はお湯のなかを歩いているのかと錯覚するほど暑かったけど、毎日恋人と3匹の猫と身体を寄せあっているうちに、暑苦しく愛情深く過ぎていった。