いぬごや

よくはたらくいぬです

2019-01-01から1年間の記事一覧

焚火のにおいの猫を抱く夜

ひとりで住む家をぴかぴかに磨いて、きのう実家に帰ってきた。久しく会っていなかった猫のおでこを嗅いでは少し嫌な顔をされるのが楽しくてずっと構ってしまう。13歳になるうちの猫は仔猫の頃からずっと、焚火や焼き芋、炙った干し芋、ミルクとバターたっぷ…

揚げもの鍋を洗う夜

このところ、ちょっと何事かと思うくらい仕事が慌ただしい。新人の研修をうけもつことになって、日中のほとんどを指導の時間にあてている。校正をしているうちに日が暮れて、夜になってから自分の記事をやれやれと書きはじめて、オフィスに併設されているバ…

甘いけむりに涙を飲む夜

私は物欲がまあまああるほうだと思う。特にインテリア系のちょっとしたプロダクトや、釉薬がとろりとした食器、間抜けな動物モチーフのファブリックなんかにとても弱い。職人がひとつずつ槌目をつけた栓抜き、あらかじめすこうし曲げられた薄いガラス製のス…

ケーキはまだおあずけの夜

一年に一度くらい、ごく稀に高熱を出す。週末にかけてぐずぐずと体調を崩してしまって、会社を早退してハチに看病してもらって、なんだかよくわからなくなっているうちに誕生日を迎えた。 平熱がとても(本当にものすごく)低いので、発熱するとあっという間…

あまい紹興酒に浸かる夜

金曜は職場の飲み会で、ライター全員で馴染みの中華料理屋に行った。山椒が痺れるほど効いた麻婆豆腐、甘いエビチリ、牡蠣とニラのオイスター炒め、ブロッコリーとホタテの塩炒め、酢胡椒をつけた餃子なんかをお腹いっぱい食べて、仕事のことや好きな映画に…

滲みあう秋の夜

このところハチがよく、恋人だったころの話をする。 かき氷のメロンシロップを炭酸水で割って、スプーンですくったバニラアイスを乗せたクリームソーダ。夏が終わるころによく作る。台所の棚から飲み残しのラム酒を勝手にとってきてとぷとぷと注ぎ入れて、あ…

過ぎた嵐をおもう夜

台風が過ぎ去って、ぽかんと高い秋空を眺めながらいろいろと家事をして過ごす日曜。ベランダの窓ガラスに大きなひびが入ってしまって、アパートの管理会社や保険会社に電話をかけたり。梅雨頃から待っていたフィギュアがようやく届いたのを飾りつけたり。家…

新しい道をひらいた朝

遠い街へひと夏の長期出張に出ていたハチが、うちから自転車で15分の距離にある家に帰ってきてしばらく経つ。不在時に借り受けていた自転車は主人のもとへ帰っていって、春ぶりに空っぽに戻った駐輪場を見ながら毎朝アパートの階段をくだっている。うちのタ…

7年越しの食卓の夜

夏休み1日目。 というかそもそも、夏休みがある。転職以来最大の衝撃。お盆前の繁忙期を力技で乗り越えて(とんでもない量の記事を書いた)、その勢いのままアロハシャツや浴衣がドレスコードという浮かれた納涼会になだれ込んでビールを水のように飲み、日…

白桃のにおいを嗅ぐ夜

桃がとても好きだ。大切に追熟させていたのをよく冷やして、この週末に友人と分けあって食べた。私があっという間に自分の分を完食したものだから、最後の大きなひと切れを食べさせてくれて、普段あまり意識していない年の差をなんとなく実感する。人と食べ…

雨季と真夏のはざまの夜

髪をとても短く切った。人生で一番短いかも。首を風と日光と人目に晒すのは少しだけ勇気がいるけど、慣れるとすごく背筋が伸びる。夏を迎える儀式みたいに、毎年この時期になるとベリーショートにする。慌ただしく撮影現場を駆け回っていた去年までと違って…

ひとりとひとりに戻る朝

誰よりもそばにいた人が、ひと夏、遠くへ行くことになった。 週末になるたび私の家を訪ねてきて、私の料理を食べて、動物の群れのように寄り添って眠って、長い長い時間を隣で過ごした。どれほど一緒にいたって飽きなくて、可愛くて仕方なくて、体温を分けて…

遠くをめざして歩く夜

10年来の親友が結婚した。少し暑いくらいによく晴れたゴールデンウィークの中日で、芝の敷かれた中庭やサンルームのあるレトロな邸宅でのとても愛らしいお式。地元のミスタードーナツで試験勉強をしながらハニーチュロやえびグラタンパイを半分こしたり、西…

新しい名前をもらった夜

冬に仕事で身体を壊して職場とさよならする決心をしてから、早ふた月くらい。新しい職場が決まった。ずっとずっと憧れてた、もの書きの仕事。 今思うと冬にしては陽射しが暑い日だった。ぬるく心地良い春の嵐に面接帰りのかばんをぶらぶらさせながら、引き継…