いぬごや

よくはたらくいぬです

あまい紹興酒に浸かる夜

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金曜は職場の飲み会で、ライター全員で馴染みの中華料理屋に行った。山椒が痺れるほど効いた麻婆豆腐、甘いエビチリ、牡蠣とニラのオイスター炒め、ブロッコリーとホタテの塩炒め、酢胡椒をつけた餃子なんかをお腹いっぱい食べて、仕事のことや好きな映画について皆で長いこと話し込んだ。5年もの、10年ものの紹興酒の瓶を並べて皆で飲み比べているとき、一番好きな映画は何かという話になって、数分悩んだ結果『ベルリン・天使の詩』を挙げた。小津安二郎的なカット割りが好き。うちの会社のライターは皆、拠り所にしている映画や小説があるという共通点がある。各々がこころの内側に大切に秘めている一本を尊重しあえて、そんなところが好きだなと思う。


その後、ほどなく終電がくる街でハチと会った。ハチも職場の飲み会でたまたま同じ街にいて、連休前の開放的なフワフワがなんとなく互いの背を押したから。大きな交差点の角でガードレールに腰掛けて、少しずつ駆け足になっていく往来を眺めてハチを待った。紹興酒に潤んだ視界に、朱色のテールランプやタクシーの「割増」の黄緑色のネオンが流れていく。火照った頬を秋のつめたい夜風に晒すのはとても気持ちがいい。あまい後味を舌の上で転がす。何度目かの赤信号が青に変わったとき、往来を縫って駆けてきたハチが勢いをゆるめないまま胸に飛び込んできて、夜風で少し冷えた頬と頬をくっつけあって笑った。


ひさびさにハチの家で夜を過ごして、翌朝、ホットケーキを焼いてもらった。ホットケーキを焼くのはハチの係という決まりがある。蜂蜜とメープルシロップの間の味がする森永のケーキシロップをたくさんかけて、薄く切ったバターをのせた。ボイルしたソーセージにかけたケチャップがホットケーキにこぼれて、所々甘じょっぱくなるのが好き。食べ終えて、ふとんを干して、午前中の白い陽射しでひたひたになったベッドでふたり怠惰に過ごした。


夜は私の家で、きのこをたくさん入れたカレーを作って、目玉焼きとカリカリに揚げたれんこんの薄切りをのっけて食べた。ハチが辛党で私が甘党だから、こくまろの辛口とバーモントの甘口を混ぜる。たまねぎはバターで15分くらい炒めるけど完全な飴色にはしない。蜂蜜とトマトのホール缶を入れる。もっと辛いほうがいいとわがままを言うくせに、ハチは私のカレーをいつも少しおかわりする。


肌寒い夜が増えた。空気の暖かいロフトで毛布にくるまっていた昨年の初冬を思い出す。すぐに冬が来るんだろうな。今夜は熱い昆布茶をなめて寝る。