いぬごや

よくはたらくいぬです

冷たいかぶ、夏の入口

このところ、暑かったり肌寒かったり雨だったりの繰り返しでじわ〜っと体力が削られている。心地いい初夏をもうちょっと味わいたかった。春からいる新しい職場の仕事は興味深いものの大変なことも多く、ミイさんに持たせてもらったお弁当や水筒に詰めたルイボスティー、フレックスの恩恵で夜ちょっと早く上がったときの日の高さ、週に二日の在宅勤務日に家で食べられる作りたてのトマトパスタ、そんなようなものでなんとか機嫌を繋いでいる。

なんだかんだあって再会したハチと、さらになんだかんだあって同僚になった。当時の荒療治の甲斐もあり、単なるよき友人としてデスクを並べている。なんなら10年くらい働くのかもな〜と思わされる瞬間すらあった前職からの転職がそもそも一大事すぎて、ハチと同じ職場であるということが、私の中で逆にそこまで際立っていない。

何年か前、ハチの出張先の街へ出向いて休暇を過ごした夏があった。そのとき訪れたバーの酒と料理がおいしくて、自家製モヒートや網焼きパンのピーナッツバターサンドの味について興奮気味に話していたら「お二人とも飲食関係のお仕事ですか?」と店主に尋ねられた。私はライターで当時のハチはアパレル勤務だったものだから、食い意地が張っているだけですよと返す笑い話になったんだけど、離別とかコロナ禍とか私の結婚(便宜上)とか再会とか転職とかをさんざん巡りめぐった今、マジで飲食業界でともに働いている。食べ物の会社でライターをやることはかねてからの悲願だったけど、そんなおまけがついてくるとは。

かつてそういう夜があったこと自体をすっかり忘れていたけど、人生の伏線回収…とつい思ってしまう。何度切れても繋がる縁だと受け入れたし、その縁にもう惑わされないくらいには互いに大人になった。ミイさんという家族をもったことで私はあの頃よりもアルコールに弱くなり、ハチは私をもう夜の食事に誘わない。

あの夏からは遥か遠く、それでも同じように暑くて茹る夏へと日ごとに近づいていく。近所の八百屋で冗談みたいな安さで買えたかぶがとてもおいしくて、バターやにんにくを使った白いポタージュをよく作っていたけど、そろそろ油を使わないレシピに変えたほうがサラッと食べられそう。このかぶは生で食べても瑞々しくてしっかり味が立っているから(果汁…と思い浮かぶくらいジュワッと水気が滴る)、今夜はふるさと納税で届いた帆立の貝柱とあわせて、塩と黒こしょうとオリーブオイルで食べよう。あとは鶏ももといんげんを焼いたのとか。