いぬごや

よくはたらくいぬです

南国果汁2%

アイスは夜道で食べるからおいしいのだ

歩きながら食べるアイスクリーム、およびそういう突発的に氷菓が手に入るイベントというのはいくつになっても嬉しい。夜のコンビニで買ったスイカバーを齧りながら帰るだとか、セブンティーンアイスの自販機を見つけてしまってその場(たいてい駅のホームとかのものすごく中途半端な場所)で棒立ちになってアイスキャンディーをむさぼるだとか、そういうの。しかしうちのミイさんはなんと氷菓全般がことごとく嫌いなので、そのたぐいの日常的うきうきイベントをともに楽しむ希望は一緒になってまもない頃に捨てた。アイスが嫌いな人がこの世にいるなんてそんなバカなといまだ思っているが、どうやら本当にだめらしい。

在宅勤務日の夜、お風呂に入ったあとコンビニへ牛乳を買いに行こうとしたら予想外にミイさんがついてきたので、せっかくならと閉店間際のスーパーに行き先を変えた。お刺身と鉄火巻きを半額で手に入れて喜んでいると、おもむろに「アイス買ってあげようか」イベントが起こり一気に浮足立つ。そんなに嬉しいもんかね、という視線を浴びながら、ブルーシールのグァバアイスキャンディーを買ってもらった。

パッケージが最高

果汁2%、香りつき消しゴムみたいに人工的なピンク色のアイスキャンディーは、家まで徒歩5分の夜道であっというまに胃袋へ消える。じっとり湿った梅雨の夜に、南の島の(しかも浮かれたフレーバーの)氷菓を食べられるくらいハッピーなことってそうそうない。夢みたいにおいしかった。かわりに真冬にコーンポタージュとか肉まんを買ってあげよう。

中華からあげ百景

すっぴんでとサンダルでフラッと行ける、心身ともに家から程よい距離のところに町中華屋がある。夏休みにプールに行った帰り道や、お盆に墓参りに行ったあとみたいな、懐かしく牧歌的で気だるい雰囲気がいつも漂っているのが居心地よくて、ミイさんとよく通っている。日中はブラインドの隙間から陽ざしがよく射しこみ、店内のテレビで流しているのはいつも野球中継。夜は早くにさっさと店じまいしてしまうところもいい。

梅雨の晴れ間にお昼を食べに行った。これまで通う中でチャーハンとかラーメンとか餃子とかの定番をひととおり食べてきたけど、鶏のからあげ定食が一番おいしいと思っている。醤油がしっかり効いたザックザクの衣とぷりぷりの肉を頬張ると、食べ終わるまでの間「おいしい」以外の感情と語彙が一切なくなってしまう。末恐ろしい。この日も数秒前まで油の中にいたような揚げたて熱々のからあげが運ばれてくるや否や、からあげとごはん、ちょっとマヨネーズがつけられた千切りキャベツ(刻みの幅があまり細くないところが家庭的で好き)、セットの醤油ラーメンスープ、お新香のループに嵐のように叩き込まれ、気づいたら汗だくですべての皿を空にしていた。とんでもない熱量が身体の中を駆け巡っていったあとのような、圧倒的に“動”の達成感。こういう食事のあとに間髪入れずごくごく飲むお冷ってつまさきまで痺れるくらいおいしい。サウナを出たあとみたいな気分でひと息つくと、午後の陽光が透明のビニールテーブルクロスやお冷のグラスをキラキラと蜂蜜色に染めていて、なんだか天国みたいな光景にぼんやりしてしまう。

渋谷の台湾料理屋『麗郷』のからあげを思い出した。同じような醤油ベースの味だけど、どこかやみつきになる不思議な甘さがあって、添えられているケチャップとマヨネーズをちょっとつけたりしながら食べる。骨つき(といってもフライドチキン的な形状ではない)で歯ごたえがあって、むしむしと齧りながら背の低いジョッキでビールを飲むのが好き。若い頃によく通い、よく食べてよく飲んだ。最近はもう、中華料理屋であまりアルコールを頼まない。

ミートパイ襲来

空腹に気づいたある休日の午後。ごはんよりはなんとなくパンやパスタ的なものが食べたい口だけど、夕方に近い変な時間だから今パスタなんて食べたら夕飯がよくわからんことになるな…そういえばキッシュ作ったとき買った冷凍パイ生地が余ってるな…とかなんとか考えるうちに、気づいたらミートパイを作り始めていた。冷凍挽肉をたまねぎとにんじんのみじん切りと一緒に炒めて、ソースとかケチャップで味つけして、パイ生地で適当に包んで卵液を塗ってオーブンで焼くだけ。

はがきよりでかいミートパイ

焼きたてを紙に包んで二階に持っていくと、私が台所でなにを作っているか知らなかったミイさんが一瞬完全に「なぜ我が家に急に焼きたてのミートパイが現れたのかまったくわからない」という顔で処理落ちしていて笑ってしまった。私も驚いたんだけど、パイ生地と挽肉が冷凍庫にあって私が暇を持て余していると、パン屋で売ってるみたいなミートパイがいきなり家に現れるんだよ。

オーブンから出して10分も経たない熱々のうちにあちあち言いながら平らげた。ハンバーグとかキーマカレーとか、シナモンとバターでソテーしたりんごとかも今度パイ包みにして焼いてみよう。オーブンとパイ生地(ついでに野菜のみじん切りに使ったブレンダー。意味不明なほど便利)という、これまでの私の人生に存在しなかったもの同士が相乗効果で興奮をもたらしてくる。クッキングシミュレーションゲームとかで、設備やアイテムが増えた瞬間に作れるメニューが大量に解禁されるあの感覚。できることが増えると料理はとても楽しい。