いぬごや

よくはたらくいぬです

7年越しの食卓の夜

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夏休み1日目。

というかそもそも、夏休みがある。転職以来最大の衝撃。お盆前の繁忙期を力技で乗り越えて(とんでもない量の記事を書いた)、その勢いのままアロハシャツや浴衣がドレスコードという浮かれた納涼会になだれ込んでビールを水のように飲み、日も高くなった頃に蝉の声で目を覚ました。気がついたら9日間もの平穏な夏休みがゆっくりと始まっていた。まだちょっと夢みたいだと思ってる、悲しい元社畜のサガ。

 

初日。少し前の七夕の日に、友人の結婚式で7年越しに再会した昔の恋人が遊びに来た。私の作った昼食のパスタを食べて、クーラーの効いた涼しい部屋で電池が切れたように眠って、夕飯を作り始めた頃にようやくのそのそと起きてくる姿に学生時代を思い出す。いつでも眠たそうな顔をしている子だった。気怠そうで、何を考えているかわからないような伏し目が好きだった。ベランダの窓を開けて、ベッドに並んで腰掛けて打ち上げ花火を見上げている手元には結露に濡れたビールグラスが揺れていて、制服姿の彼女を遠くに思い出す。揃いのショートヘアで、よく双子のようだと言われていた。

 

七夕の夜、結婚式の三次会がお開きになって、クロークで荷物を探していた私の腕をアルコールの名残る熱い手のひらがパシンと捉えた。7年の月日を軽々と飛び越えて、気怠げな伏し目がきちんと正面から私を射抜く。クロークの暗がりの中でもアイシャドウが柔くきらきらと光っているのが見えて、私の中で17歳のまま止まっていた彼女の時間がようやく動き出した瞬間だった。多分、彼女の中の私の時間も、その時から動き出した。

 

職場でもまだまだ若輩組だけど、もうだいぶ、大人になった。夜遅くに駅まで見送った彼女は、別れを告げて自転車に跨った私に「気をつけてね」と大きな声をかけた。突然腕を掴まれた七夕の夜と少し重なる。昔から、別れ際に勢いづけて何かを言える側の人間だったね。私は言えない側の人間。元恋人というより、お姉さんの気持ちを味わった、嬉しく感慨深い再会の夜だった。