いぬごや

よくはたらくいぬです

晩夏の灯

顔を近づけてじっと見てると案外けむい

昨夜、うちで線香花火をした。古民家みたいな戸建てに住んでいるので、手持ち花火ができるくらいのささやかな庭と縁側がある。庭は雑草生え放題であまり手入れできていないけど、縁側がすごく好きだ。フローリングと梁が飴色で、仕切りはガラスのはめ込まれた雪見障子、大家さんが土いじり用にしつらえたと思しき水汲み場。ここに大きなフィカスベンガレンシスの鉢や庭仕事道具を置き、猫たちのごはんスペースを設けてあって、夏はときどき蚊取り線香を焚く。冬は息が白いほどに冷え込むので、暖かい居間ですき焼きとか天ぷらそばとかを食べながら、冷酒で飲みたい日本酒の瓶をここに置いたりしていた。

火の玉が燻って細かい火花を散らすと、線香花火を持っている指先にジジジと振動が伝わる。手の中で火薬が焦れて破裂するような心地。ゆらいだ煙がスウと鼻を掠める。友達と出かけてわいわい花火をやるんじゃなく、くつろげる自宅でビールを飲んで、小さな炎に静かに向き合うのはとても不思議な時間だった。ちょっと瞑想みたいでもある。濃い蜜柑色に燃えた火の玉が滴るのが、なんだか甘そうにも見えた。

すいかに塩をふって食べたり、長芋をすりおろしたトロトロ生地のたこ焼きを作ったり、それらしい夏の終わりを過ごしている。一人暮らしの頃はなかなか食指が動かなかった冷やし中華も(一人分だと具の用意がめんどう)、パートナーが喜んで食べるので今年の夏は何度か作った。茹でた海老、キムチ、ちぎった韓国海苔、きゅうりの塩もみとかを乗せた、冷麺みたいな黒酢醤油だれベースがさっぱりしておいしい。温泉卵を乗せてもいいな。

少し涼しくなってきたので、花火と蚊取り線香の残り香が漂うなか、昨夜は長袖を着て寝た。猫たちも、3匹寄り添ってみたり人間ふたりの間に割り込んできたりと、かわいい暖のとりかたをしている。夏の終わりにふっと空気が涼を帯びる瞬間が一年でもっとも好き。今夜はきのう余ったたこ焼き生地を使って、お好み焼きを焼いて食べる。