いぬごや

よくはたらくいぬです

ハッカの香る家

薄荷という名の新しい猫を家に迎えた。海苔をまいたおにぎりみたいな柄をした、白黒模様の仔猫。うちの庭で生まれ育ったのを梅雨ごろからずっと見守っていて、そのうち保護して育ててもいいなと思っていたところ、とある夜にチャンスが飛び込んできて(というか文字どおり仔猫が縁側に飛び込んできて)急遽仲間入りすることに。丸洗いして病院につれていって、人間がさんざん嫌われるあれこれを済ませたうえでケージに住まわせてしばらく経ち、やっと野良時代の記憶が薄れてふつうの愛すべき家猫になった。遊び盛りなのかとにかく動きまわってばかりいる。

仔猫を飼うのは初めてではない。でも、実家で飼っていた子が小さかったころはそれこそ私自身もまだ子どもだった。いざ大人になって、小さな頭や肉球をいつも熱々に火照らせて力のかぎり遊んでいる仔猫と暮らしてみると、母性としかいいようのない感情がふつふつと湧きだしてくることに驚いた。白い毛並みに薄桃色の肌が透ける、この世でもっともやわらかいものに違いないお腹を放りだして眠る姿に、心臓が心地よくざわめいて満ちるのを感じる。

杏・甘露・薄荷という、日本の飴にちなんだ猫たちの命名はなかなか気に入っている。千歳飴のちとせ、手毬飴のてまりとかも候補にしていたけど、ハッカという響きの破裂音がお姉ちゃん猫たちとかぶらなくて聞き取りやすいかな、と思って薄荷にした。ただ、キトンブルーの時期(生後まもない仔猫は全員目が青い)を過ぎるにつれて目がどんどん深い蜜色になってきたので、この子のほうがむしろカンロ飴っぽいな…とも思う。音の響きがもっと名前っぽければ、べっこうとか純露にしたかもしれない。

夏の疲れで身体が重い。手羽元を炊いたスープとか、焼いて塩をふっただけの野菜とか、蒸した茄子を裂いて梅であえたのとか、人間ふたりは毎日そういうのばっかり食べている。出かけるときや眠るときにハッカ油を肌に噴きつけるとなかなか涼しくて、香水のアトマイザーみたいなのに入れて持ち歩くようになった。シーツや部屋着がいつもほんのりハッカの香りを帯びているなかで、猫の薄荷が毎日ちょっとずつ大きくなっていくのを見守る夏。