いぬごや

よくはたらくいぬです

祝いの夕べ

クランベリーみたいに華やかでうまい赤ワイン

12月になった途端、どんどん日が落ちるのが早くなっていく。昨日の夕方頃あまりに眠くなったので、マフラーを巻きつけて会社のビルの中庭に出て、空が藍色に暮れていくのをぼんやり眺めながらコンビニの豚まんを食べた。一番安い普通のやつじゃなくて、特選とか黒豚とかそういう名前がついたちょっとリッチなやつ(色んなコンビニで売っているけどファミマのが一番うまい)。具が551の蓬莱みたいにジューシーだし、生地もムギュムギュしていておいしいので、冬はよく好んで食べている。暑いところで冷たいものを食べるより、頬がキンと冷えるところで熱々のものを食べるほうが好き。

先日、都のパートナーシップ宣誓制度を申し込んだ。ちょうど施行されたばかりの時期だったのでどんなものだろうと思ったけど、良くも悪くも「入籍ごっこ」みたいな感じ。出生地から取り寄せた戸籍抄本、コンビニで発行した住民票、マイナンバーカードのコピー、顔写真。そういうものを各々用意して情報を入力するとつつがなく申請が済む。

予感してはいたけどなかなか呆気ない。自治体によっては証明カードみたいなものをもらえるところもあるけど、東京都の場合はオンライン前提なので本当にスンと終わる(実家の現所在地ですらない関西からの戸籍抄本の取り寄せが一番大変だった)。申請後には私とパートナーの連名宛メールが届いた。「お二人のこれからが幸多いものとなるよう」とか書いてある。オフィシャルな場で初めてつがい扱いされたことが、悔しくもほのかに嬉しい。でもこんなことで満足したくないし、早くパートナーのボタニカルな苗字を名乗りたいよ。そんな日が生きているうちに来るんだろうか。

その日は朝から大雨が降っていたので、一緒にひとつの傘をさしてお祝いの食事へ出かけた。自然派ワインの飲める小さな新しいレストラン。営業時間は灯りが消えるまで、食事のメニューはおまかせコースだけ。特別な日に使うような価格帯だけど、セーターに履き慣れた革靴みたいな格好で暖かくくつろいで、緊張せずにおいしいものを食べられる空気感が心地いい。

3種のペアリングワインをつけてもらって、かぶのムース/鰆の炙りヨーグルトソースがけ/牡蠣と菊芋の洋風仕立て茶碗蒸し/あなごのフリットの茄子タルタル添え/ヤリイカの手打ちパスタ/金華豚ステーキと里芋のコンフィ/和梨ソルベ…のコースをゆっくり楽しんだ。和寄りの食材をフレンチ風に仕立ててあって、フッと舌を掠める塩粒の気配や濃厚な風味がとてもおいしい。とくにあなごのフリットが気に入った。揚げ茄子を刻んでトロッとさせたものが上に乗っていて、ホクホクと湯気ごと食べるような白身の甘みを糸唐辛子がかすかに引き締めていく。香りのいいオレンジワインも堪能した。

店主ひとりで切り盛りしている店のようだから、どこで知ってくださったんですかとか、ご近所にお住まいですかとか、カウンターで食べているとさりげなく話しかけられる。揃いの指輪を左手の薬指につけ、手をつないで同じ家へ帰っていくのに、こういう時に「結婚記念日のお祝いで」と言えない。そんなような虚しさがちょっとずつ積もるけど、料理はおいしかったし、二人で帰る家路は肌寒くもあたたかいからまあいいか、と機嫌をとって生きていこうね。

今日は先ほど歯医者から帰ってきて、家の仕事場で書きものをしたり本を読んだりして過ごしている。猫3匹は各々好きなところで寝転んでいて、階下の台所からはパートナーが作り置きおやつのプリンを作る音が聞こえる。夕飯はマカロニグラタンとマッシュルームのポタージュの予定。こういう日が、ずっと続くといい。