いぬごや

よくはたらくいぬです

たてがみのない夜

年に一度、首が全部見えるほどに髪を短く切る。とくに離別とか決意とかそういう理由がともなうことはなく、単純に癖毛にうんざりする周期が年一で訪れるというだけの話だけど、着る服の系統をけっこうしっかりと変えなければいけないので、結果としてそれなりの儀式めいたものになってしまう。

その時期は年によって違って真冬だったり真夏だったりするけど、今年のぶんをこの週末にやった。前回は去年の秋が深まる頃で、マフラーやハイネックのセーターが心許なくなった首元を覆ってくれたけど、真夏はそうもいかない。遮るもののないうなじを白い陽がじりじりと焼く感触。冬に首が冷気に晒されるのは身体が芯まで澄むようでむしろ気持ちがいいのに、暑い今はなんとなく、群れから放り出されたいきもののような心地になる。たてがみが立派でないはみだしものの雄ライオンとか、そういうの。

筆が進まない仕事をなんとかやりきった。職域接種の日程がうんと延期になった。ベランダの育ちすぎたオリーブを剪定して、切り分けた枝を束ねて飾った。シャンプーをレモングラスの香りがするものに変えた。ここ数ヶ月蔑ろにしていた自炊をまた細々と再開した。部下がまた増えて、業務領域がじわじわ広がって、だからといってそう変わることのない日々が続く。

8月が終わったところでまだ残暑がうんと残っていることは理解していながらも、私の心身ではどうにも処理しづらいこの季節に終わりが見えてきたことが、くさくさしたなかに唯一の安堵をもたらしている。早く秋になってほしい。首も腕も、本当は暖かいものに包んで隠してしまいたい。マスクで異様なまでに火照った顔をぐったりしながら冷ます夏が、来年もまた来るんだろうか。