いぬごや

よくはたらくいぬです

肉を焼く、傷を埋める

土曜のこと

「魚屋でアジを買ったから今夜はアジフライ」「じゃがいもが安かったからコロッケにしよう」みたいな感じで、必要な食材をちょっとだけ(それも気まぐれで)手にいれて、それを随時料理して晩のおかずにするような身軽さによく憧れる。うちは食費と台所を預かる私が会社勤めなのでそうもいかず、ほとんどネットスーパーを使っているけど、それでもたまに食材を気分だけで買うとやっぱり楽しい。

夜にケチャップソースの甘辛トンテキを作るつもりで散歩へ出かけ、ついでに駅前のマルシェになんとなく寄ったら、瑞々しいローズマリーの束が安く買えた。ローズマリーと塩胡椒でシンプルに焼いたポークソテーにつけあわせを添えようと路線変更して、にんじんのグラッセいんげんのソテー、にんにくで香りをつけた小粒じゃがいも(これは八百屋で安く買った)の素揚げを作る。適切な火加減で焼いた肉に塩を振ってむしむしと頬張る食事は、とても原始的なのに、無駄が削ぎ落とされて洗練されている気もするのがおもしろい。粒マスタードや辛口のシードルとよく合っておいしかった。

ここ数日、東京都パートナーシップ制度の申請に必要な書類を集めている。産まれてからたった2年ほど住んでいただけで、今や親すら何のゆかりもない、はるか遠くの街に本籍を置いているのもどうなのかともやもやすることが増えたので、これを機に連れ合いともども転籍することに。独身証明書を取り寄せたり、年末調整で「配偶者なし」を選んだり、そういう無遠慮な紙や文字に削られた精神をパテで埋めるために、毎日せっせと二人分の料理を作り続ける。

日曜のこと

ベーコンエッグをフライパンから直接ごはんの上に乗せて、半熟の黄身に牡蠣醤油を垂らしたのと、お揚げとあおさの味噌汁。休みの日の朝食はこういうのが食べたくなる。人間たちがこたつでお茶を啜る傍らで、秋晴れの陽が畳をまばゆい卵色に染めて、そこで猫たちが寝ている平和の権化みたいな光景。

朝のうちに家じゅうに箒をかけた。掃除機の調子があまりよくなくて、最近は掃き掃除をすることが多い。今日は読みたかった本が何冊もまとめて届いたので、仕事をしているパートナーの机を一角陣取って、黙々と読書をしながら過ごした。通勤時間があまり長くないので平日に本を読めず、こうして土日に時間をつくることにしている。文庫本を一冊と漫画を二冊読んで、合間で少し昼寝をしたり、レモンや金柑の苗に水をやったり。

夜は身体によさそうなものを食べたくなったので、豆腐や豚バラや椎茸をすき焼き風にあまじょっぱく煮た肉豆腐と、蒸しなすを裂いてすだち果汁と白だしで和えたの、サイコロ切りのきゅうりと長芋を海苔や黒酢で和えたのを作った。簡単な肉豆腐でも、すき焼きみたいに鍋ごと食卓へ持ってきて、熱いうちに溶き卵にからめて食べるとご馳走になる。明日はこのつゆの残りで親子丼を作ろう。