いぬごや

よくはたらくいぬです

ローストポークへの思慕

最近、ローストポークという料理について、ふと「これは大好物といってもいいな」と心に落ちた瞬間があった。響きも佇まいも、気どらず素直なところがまずいい(そもそも「ポーク」とつくあらゆる料理名の、古き良き洋食っぽさが漂うところも好き。ポークチャップとかポークカレーとか)。スパイスとかをたくさん擦り込んだり、なにかに漬けておいたり、凝ったソースをかけたりしなくてもしっかりおいしくて偉いと思う。「適切な温度で焼いた豚肉に塩をちょっとつけて食べる」というプリミティブな行為でしか得られない満足感。熱々の一瞬だけが食べ頃なんじゃなくて、冷めて落ち着いたところを切り分け、焦らずゆっくり食べるという理性がある感じもいい。

とても理想的なローストポークに巡りあったのが、そう気づいたきっかけだった。クリスマスとかの特別な日の食事としてよく使っている、パンと肉料理を得意とする小さなベーカリーレストランがある。これまではサルシッチャと色んなパンの盛り合わせやスペアリブ、朝昼であればトーストセットやリエットサンドなんかを好んで頼んでいたけど、冬の終わり頃に私の転職祝いとしてパートナーのミイさんと訪れた夜、とくに深く考えず頼んだ前菜の盛り合わせがちょっと驚くほどすばらしかった。さして記憶に残らない、生ハムとかチーズとかがほんの少しずつ上品に並べられた「…まあないよりはあったほうが華やぐよね(でも高いね)」という趣きの盛り合わせにはしょっちゅう遭遇するけど、そんな虚無プレートとはあまりにも違う。

この気前のよさ

キャロットラペやビーツのマリネ、かぼちゃのロースト、モッツァレラチーズ、サラミにパテドカンパーニュ…などなどが気前よく盛りつけられたひと皿。新鮮でおいしい肉と野菜とチーズが惜しまずたっぷり提供されるだけで、すごく豊かな気持ちになれる。この中のローストポーク(皿の右側あたり)が最高だった。しっとり柔らかくて少しのパサつきも脂っこさもなく、最適な量だけまぶされた塩が肉の甘みを引き立てて、ぎゅっぎゅと嚙めば嚙むほど満ち足りていく感じ。もちろん赤ワインに痺れるほど合う。フォークとナイフで少しずつキコキコやるより、頬張ってお腹いっぱい食べたい。

このローストポークがあんまりにおいしかったから、後日、家へ遊びにきてくれた同僚へのもてなし料理を作る際に「ローストポークを自分で作れる側の人間」になってみようじゃんと思って豚肩ロースをブロックで買ってみた。常温に戻した肉をフライパンで全面こんがり焼きつけて、塩をまぶしてりんごとローズマリーと一緒にオーブンで小一時間焼く。粗熱が取れてから切り分けたら、お手本みたいなローストポークが現れた。断面もきれいな桜色。想像の数倍かんたんでびっくりする。

絵に描いたようなローストポーク

もちろんお店で食べたものの方がジューシーで風味もよかったけど、うちのキッチンで適当に生み出したものにしてはかなり誇れる出来。肉と一緒に焼いてほのかに野性味を帯びたりんごと合わせて食べるとぴったりで、同僚が手土産に持ってきてくれた辛口シードルにもよく合う。この日のメニューはこんな感じで、たくさんの肉や野菜を皆でおいしく食べ、ワインやシードルの進む素敵な夜になった。

  • ローストポーク 焼きりんご添え
  • 鯛と伊予柑カルパッチョ
  • マッシュルームとオイルサーディンのパン粉焼き(写真右上のモロモロしてるやつ)
  • きゅうりとツナのヨーグルトサラダ(リボン状に薄くスライスしたきゅうりを塩とおろしにんにくを混ぜたヨーグルトで和えてオリーブオイルをかける)
  • 芽キャベツのガーリックバターグリル
  • かぶの冷たいポタージュ

去年のクリスマスくらいから、もういい年だし…ともてなし料理のレパートリーを増やそうとしているので、今後もこういうのを時々作ろう。オーブンレンジも冷凍ごはんをチンするばかりじゃなく、でかい肉とか焼いたほうが楽しいだろうし。