いぬごや

よくはたらくいぬです

肉を焼く、時が止まる

冬の終わりに巣立った会社でずっと喜怒哀楽をともにしていた、管理チームの元部下たちを先日家に招いた。何十人もの部下を一緒に育てたり面倒見たりしていたから、男女二人ずつの計四人、同僚どころではなく親友みたいな心持ちでとても仲良くしている。

そのうち主任にあたる二人に、とうとう自分のパートナーが女性であることを打ち明けた。上司が部下に自分の秘密(しかもトップシークレット級)を打ち明けるなんて、どんなに仲がよかろうと「秘密を守る」という重荷を強要してしまうことだと思って今までずっと内緒にしていたけど、転職してただの友達になったのでようやく言うことができた。

二人ともすごく好意的に受け入れてくれて(片方に至ってはやっぱりなという顔をしていた)、何年にもわたる一種の罪悪感や後ろめたさがようやく溶けて消えた。そう隠して生きているわけではないけど、どうしたって会社関連のカミングアウトは本当に緊張する。女の子のほうは「汐さんご自分の話ぜんぜんしないから、聞かれたくないのかと思って詮索しないようにしてた」と言いつつ嬉しそうに興奮していて、男の子のほうは「汐さんの自認(つまりセクシャリティ)は何にあたるんすか?」ととても適切な言葉で尋ねてくれたのが嬉しかった。君たちは本当に思慮深くてえらいよ…

その夜はとても楽しかった。ホットプレート焼肉をするからお肉の持ち寄りを各々に頼んで、うちでは蛇腹きゅうりをメンマで和えたのや自家製ねぎだれを作りつつ野菜をたくさん用意していたら、大学生のサークルのバーベキュー…?と見紛うくらいの大量の肉が着弾した。全員もうアラサー以上だしさすがに余るだろ〜と思っていたのに大半完食してびっくり。

大量の牛タン(皆めちゃ買ってきて加齢を感じた)、ハラミ、カルビ、豚バラ、味つけしてある鶏もも、ガーリックオイルに漬けられた牛肩ロース、ウインナーとかをどんどん焼いて、れんこんと舞茸の塩オイル焼きやエリンギのバター胡椒焼き(絶品)とかも作って、煙たい部屋でずっと喋り続けながらひたすらお腹いっぱい食べる。うちで育てているレモンの実がちょうど収穫の頃合いだったから、牛タンと一緒に食べようと初収穫した。パッと目の覚めるような濃いイエローの果肉を絞ると果汁たっぷりで、かなりよい出来。焼きたての牛タンをレモン汁につけて自家製ねぎだれをくるんで、最近気に入ってるだし塩を振って食べたらすごくおいしかった。

この四人で話していると、まるで放課後やお泊まり会がずっとずっと永遠に続くみたいな錯覚を覚える。仕事のことも将来のことも各々いろいろ抱えているけど、今こうやって集って喋って笑っているこの瞬間が、とにかく楽しくて楽しくてしょうがない。いい歳こいてお腹を抱えて涙ぐむまで爆笑できて、そのうえ全員ライターだからものを見る解像度が近しくて、すべての話題にビリビリと電撃が迸ってここちよく共鳴する感じ。

昼過ぎにうちへ招いて、気がついたら8時間くらいずっと喋り通していた。たくさん食べてたくさん飲んで(うちで持て余していたワインをペロッと飲み干してくれた)、たくさん笑っているうちにとっぷり夜が更けるというあまりに健全な休日。こういう日はすごく貴重なものでそう頻繁に訪れないし、この付き合いがいつまで続くかわからないけど、ずっとこうしていられればいいのになと思う。