いぬごや

よくはたらくいぬです

こたつでご褒美アイスの夜

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終わるなあ、とこたつにもぐってアイスを食べながら考えている。今年ほどあっという間に過ぎていった年もそうそうない。年始すぐに管理職になるや否やリモートワークが始まってしまって、みんなの在宅化の手配に奔走したり(こんな非常事態に『会社側』の人間であってしまった貧乏くじたるや)、そのかたわらで新人教育や他部署折衝に明け暮れたり、なんだか常にずうっと駆けまわっていたような気がする。心身ともに。

4.5月ごろかな。マスクやトイレットペーパーがなかなか手に入らないと頭を抱えながら、うんと人がはけて閑散としたオフィスに通っていたころがひどく昔のことみたい。機材の詰まった段ボールを担いだ同僚が、一人またひとりと去っていくのを会社のエレベーターホールまで見送る日々。ときどき私も在宅で仕事をしたけど、結論、あれにはてんで向いてなかった。通勤時よりゆっくり眠れるうえに身支度をしなくていいし、朝にはバタートーストとスープとヨーグルト、昼には炊きたてごはんや昨夜のおかずを気ままに食べられたし、仕事もそれなりにはかどったけど、あんなにも寂しいとは。早朝と深夜に散歩に出かけて日中は同僚と仕事の電話をして、1Kの部屋にひとりで閉じこもらないよう意識していてもなお、どうしようもない寂しさと課の全貌が掴みづらい焦りにぐちゃぐちゃ掻き乱されるのが怖かった。

家にはたくさんのものが増えた。仕事用のデスクと椅子、小さな食玩、オリーブと金柑の植木鉢、山積みの本、気晴らしに買った食器、雌オオカミの香水。それと同時にいくつかの喪失も。もともと2020年になってすぐ、半身を失ったにひとしい離別を経験したところだったから尚のこと、どんな一年だったかと聞かれたらお別れの年だったなあと思ってしまう。でもそういう飲み込みがたい色々を飲み込んで、少なくとも今は陽のあたるところにいる。仕事は忙しいながらも順調で、慎ましく恙なく暮らしている。おはようとかおやすみとかを言って、朝ごはんの目玉焼きやクリスマスのホールケーキを分けあって食べる相手がいる。八百屋でほうれん草が100円で買えただけでスキップしたくなるほどご機嫌になれる。

きのう仕事を納めて、東向きのましかくの部屋はなんとか今日一日でぴかぴかに片付いた。えびの天ぷらを乗せる年越し蕎麦の材料を買いに少し出掛けて、綺麗になった台所で干し椎茸の旨煮なんかを作ったりして気ままに過ごしている。実家に帰らない初めての年末年始。そろそろ好きに生きさせてねと思うことに罪悪感がないわけではないけど、一人娘の務めは随所で果たしているんだからこれくらいは許してほしい。

年が明けたら、また会社全体での在宅勤務が再開する。私はうっかり課長になってしまったのでオフィス残留。きっと仕事の合間でコーヒーを淹れたり駅で買ってきたサンドイッチを食べたりしながら、閑散としたオフィスを見渡す時間が増えるんだろうな。非日常に馴染んでなんとかやっていこうね。はりきりすぎず、なんとか、でいい。

師走の夜、ショートケーキの昼

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ベランダで育てているいちじくの苗が一気に落葉すると、いよいよ真冬の訪れを感じる。このところ概ね天気がよくて嬉しい。キリリと晴れた冬の空気や白い陽射しが、年末のそわそわに健康的に拍車をかけてゆくのが好きだ。

ケンタッキーのフライドチキンとショートケーキを食べてワインやシャンパンを飲む、由緒正しいクリスマスを過ごした。バスや電車の座席でホールケーキの箱を膝に乗せていると、猫を抱いているときと限りなく近い心持ちになる。軽いけどかすかに芯を感じる重たさで、大切に守らなきゃいけないと思わせるあの感じ。

以前働いていたケーキ屋に誕生日やクリスマスのデコレーションケーキを買いに行くたび、名もない「ケーキ屋のお姉さん」だったかつての数年間が生クリームや苺の匂いと一緒に戻ってくる。閉店後にガラスのショーケースの内側を拭くのが好きだった。しんと冷たくて清涼なミルクの気配を深く吸い込むと、たいていの嫌なことは霞んでいく。その記憶が今の私のこともわりと生かしてくれているなぁと、ショーケースの向こう側からこっち側に戻った今もなお思う。心に決めたケーキ屋があるだけで、人ってけっこうやっていける。

クリスマスケーキの残りは日曜の昼ごはんに食べ終えた。すこうし輪郭のとけた休日の陽射しに、贈ったばかりのピアスが恋人の耳元できらきらしているのを電車に揺られながらぼんやり眺めたとき、昼間っていいなあと思った。明るくて暖かくて、些末なことがひとまずどうでもよくなる。思えばなんだかずっと夜にばかり重きを置きすぎていた気がする。これからはこっちにいたいな。

オオカミの名残の夜

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無地のセーターにスラックスとベージュのチェスターコート、靴下に革靴、たまに真鍮のアクセサリーとか、文字盤がシンプルな腕時計とか。今年の冬はそういうふうなスンとした格好を心がけている。撮影現場を駆けまわる前職時代はふと気を抜くとブルゾンやパーカーで着膨れていたから、しゃんとした大人の勤め人っぽくありたいなという背伸びのあらわれ。でもあんまり背伸びでもなくなってきた感じがして嬉しい。自分でそう思ってるだけだけど。

先日珍しく指輪を買った。コンプレックスでもあるごつい手にまあまあ自然に馴染んでくれるものをふたつ。仕事中は左右の手の重さがアンバランスになるのがどうしても嫌ですぐ外してしまうけど、なんか、いいなと思う。帰ってきて指から外したら、同じ日に買ったルビー色がきれいなゴブレットと一緒にこたつに並べることにしている。細々とした好きなものを丁寧にしまいこまず、適当にぱらぱら転がしておくと視界が楽しくていい。だから我が家はいつも少し散らかっている。

今夜は23時半くらいに帰宅。いよいよ師走っぽさに拍車がかかってきている。家についてマフラーとマスクを外してこたつやお風呂であたたまると、朝につけた雌オオカミの香水が最後にじわっと溶け出すような心地がすると今気づいた。ラストノートのシナモンとアンバーウッド。煮詰めたカラメルにも似てるなあとか思いながら、翌日の仕事のことも考えつつ、毎晩1時半くらいまで湯船で過ごす。

0時過ぎのバニラアイスの夜

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計画っていうものはいつだって思い通りにいかないな。秋の終わりになんとも間の悪いタイミングで在宅勤務を完全終了させたヘイシャが、なんというか予想はしていたけれど、このたびまた急遽在宅再開のはこびとなった。私は新人研修中の中間管理職とかいうすこぶる人権のない身分なので、もちろん会社に残る。社員を無事に在宅勤務へおくりだしたってだけで表彰してくれはしないものか。そうそうないこんな非常事態のさなかで管理職をしていること自体、人生屈指の貧乏くじだなとよく思う。

びっくりするほど時間が足りない。なのでもう足掻いても仕方ないし、とりあえずご褒美のアイスを買った。レジ袋をもらわずに今まさに片手に握って帰ってる。冬にバニラアイスを食べるのがとても好き。ミルク味の濃い白いアイスクリームっていうのが冬の象徴みたいに思えるから。

今日やらないといけないことはちゃんとやり終えた。明日やらなきゃいけないことは、明日の私がちゃんとやるよ。

秋と冬を煮詰める夜

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鍋でものを煮る時間が好きだ。肉じゃがとか手羽元煮とか。カレーとかシチューとかロールキャベツとか。オレンジピールとか甘露煮とか。めんどうな下処理をすべて済ませた高揚感のまま、コンロの前に椅子を持ってきて、火と鍋の番をしながら本を読んだりする。

夏の終わりから育てていた金柑が、ぽってりと重たく立派なこがね色の実を鈴なりにつけた。食べ頃になったら砂糖とお酒でシロップ煮にしようと決めていて、白ワインとコアントローとラムのどれにしようか散々迷った結果コアントローに。いざ摘みとったら驚くほどジューシーな甘酸っぱい香りが漂って、植木鉢のそばがまだかすかにいい匂い。食べものを育てるっていいな。皮に切り込みを入れたあと、手にずっと新鮮な果汁の気配が残っている。

今ちょうど、弱火で40分煮詰める工程がそろそろ終わるころ。台所じゅうがアルコールを帯びたあまい柑橘の湯気に包まれていて多幸感がすごい。できあがったら無印で買ってきたふたつの密閉瓶に詰める。こういう作業は深夜にやるに限る。

しめくくりのハイボールの夜

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昨夜は缶のバドとハイボールだけで千鳥足になるほど酔っ払ったので更新できず。隼天(はやて)というウイスキーハイボールが缶だとは思えないほど香りゆたかで美味しくて、つい。でも今起きたら、あんまり覚えがないけれどスマホのメモに日記をちゃんと書いた痕跡があったので、これはきのうぶんとして。

ひとを叱るのって、たぶん叱られるよりもうんと消耗する。私が受けもってゼロから育てた年下の部下たちは幸い皆すくすくと順調に腕のよいライターになってくれているけど、もうひとりの教育係とどうしてもウマが合わず伸び悩んでいた夏入社の年上の中途さんを引き取ってみたら、これが、なんというか、なかなか。

でも、腐らず舐めずきちんとついてきてくれている。それに報いないといけない。慕ってくれた以上は守るために心を砕く責務がある。かつて理不尽な撮影現場でみっちり育てられてしまったせいで、どうしたって筋トレ的な教育しかできないけど、届くといいなと思う。朝いちになかなかのお説教をしてしまって、これはやってしまったかと後悔していたら夜に「どうやったらもっと効率よく仕事できるようになるか」と相談してくれたのが救いだった。定時後に1時間くらい会社のカフェスペースで話し込んだ。仕事術みたいなのって自分のやり方にうんと自信がないととてもじゃないけど語れない。ライターなんて仕事をしているからなおのことそうだ。でも、そういうのをするために肩書きに堅苦しい二文字が乗っかっている。

夕方どき、月曜に入社したばかりのこれまた年上の新人さんが「日頃のお礼に」と会社のビルに入っているコーヒーショップのキャラメルドーナツを差し入れてくれた。片手間にノールックで齧れてしまうおにぎりとかクッキーとは違って、両手で包みを持ってしっかり向き合って食べないといけないとろとろのキャラメルがかかった大きなドーナツに、ちょっと驚くくらい救われた自分がいる。きちんと仕事を中断してコーヒーを淹れ直してから頬張ると、このところ足りてなかったのはこの時間だなあと脳にまわりだす糖分がわかりやすく教えてくれた。単純。

今週の反省点。スープジャーとおにぎりのお弁当を、仕事しながら食べていたところ。きちんと休まんといけん。そしてここまで昨夜酔って書いたくせにバチバチに仕事の話ばっかりで、自分のワーカホリックさに呆れる休日の朝。天気がいいね。朝ごはんにクリームパンを買ってあるから、もう少ししたら卵とウインナーを焼いて、コーヒーを淹れる。

なつかしい煙の夜

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一応禁煙していたはずが、むしゃくしゃに負けてまた一本だけ吸ってしまったことをかたちだけ懺悔する日記です。

ものすごーくさかのぼると、法に許されるようになった頃から月に1.2箱くらいのゆるいスモーカーを続けていて、それがぱたりとやんだのが今年の春。在宅勤務の開始にともない吸う場所と理由がなくなったから、なんとなくやめたらなんとなく続いた。

前職時代でもう一生分吸ったつもりでいたのに、やっぱりごく稀にでも吸ってしまうと懐かしくて好きで、ぐずぐず縁を切れずにいる。毎晩残業中に同期と連れだって会社の裏口におりて、狭い夜空やすぐそばの神社の大きな木をぼんやり見上げて、夜風が夏っぽくなってきたなあとかもうすっかり冬の空気だねえとか話しながら煙を吐くのが数少ない娯楽だった。あの頃はチョコレートの缶を使ったシガーケースが手放せなくて、BICライターのフリントからパッと線香花火のように散る火花を見るのが大好きで。紅一点のロケ隊にいたから、重たい10mgのピースを吸っているだけで監督やカメラマンにてきめんに気に入られて、それをれっきとしたビジネスツールにしていたからというのもあるけど。

制作の女性ってなんでだかピース愛飲者が多い気がする。私のまわりの人がそうってだけか。在宅勤務が終わって会社に戻ってから「在宅のあいだに禁煙したんですよ〜」とか豪語していたものの、どうしてもやりきれないことがあったときに部下ちゃんに分けてもらった一本を味わいながら吸っていたら、まんまと馴染みの愛煙家たちに見つかった。でも、コックピットみたいな狭い喫煙所の中で、仲良しのコーダーやディレクターのお姉さんたちとピースを吸う数分間をとても特別で愛おしいなとは思う。だからこうしてたまに戻ってきてしまう。よくない。でもたまになら許して、と自分を甘やかす師走の日。ちょっといいチョコレートをもらったので、明日は吸いたくなったらこれを食べようね。