いぬごや

よくはたらくいぬです

師走の夜、ショートケーキの昼

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ベランダで育てているいちじくの苗が一気に落葉すると、いよいよ真冬の訪れを感じる。このところ概ね天気がよくて嬉しい。キリリと晴れた冬の空気や白い陽射しが、年末のそわそわに健康的に拍車をかけてゆくのが好きだ。

ケンタッキーのフライドチキンとショートケーキを食べてワインやシャンパンを飲む、由緒正しいクリスマスを過ごした。バスや電車の座席でホールケーキの箱を膝に乗せていると、猫を抱いているときと限りなく近い心持ちになる。軽いけどかすかに芯を感じる重たさで、大切に守らなきゃいけないと思わせるあの感じ。

以前働いていたケーキ屋に誕生日やクリスマスのデコレーションケーキを買いに行くたび、名もない「ケーキ屋のお姉さん」だったかつての数年間が生クリームや苺の匂いと一緒に戻ってくる。閉店後にガラスのショーケースの内側を拭くのが好きだった。しんと冷たくて清涼なミルクの気配を深く吸い込むと、たいていの嫌なことは霞んでいく。その記憶が今の私のこともわりと生かしてくれているなぁと、ショーケースの向こう側からこっち側に戻った今もなお思う。心に決めたケーキ屋があるだけで、人ってけっこうやっていける。

クリスマスケーキの残りは日曜の昼ごはんに食べ終えた。すこうし輪郭のとけた休日の陽射しに、贈ったばかりのピアスが恋人の耳元できらきらしているのを電車に揺られながらぼんやり眺めたとき、昼間っていいなあと思った。明るくて暖かくて、些末なことがひとまずどうでもよくなる。思えばなんだかずっと夜にばかり重きを置きすぎていた気がする。これからはこっちにいたいな。