いぬごや

よくはたらくいぬです

板の上の太陽の話

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自分よりみっつ年上の、元アイドルの女優さんをもうずいぶんと長いこと応援し続けている。誰からも愛される笑顔と屈託のない精神、前髪の隙間に燃える眼差し、すらりと美しいけものみたいな身体のしなり。彼女を形づくるすべてのものがいつだって心の底から大好きで。コロナ禍でどうしても活躍をみられる機会が減っていたなか、冬からずっと楽しみにしていた舞台をこの週末にとうとう観にいくことができた。

遠くて眩しいばかりの星ではなくて、ときに一緒に燃えて、ときに暖かく照らしてくれるお日様。彼女は私にとって昔から長年変わらずにそういう存在だった。キラキラ光るサイリウムを両手に掲げて力いっぱい名前を叫んでいた頃から、帝国劇場でオペラグラスを握りしめて涙を流したりなんかするようになってからもずっと、舞台という板の上で輝く彼女を目にするだけでこれからの人生を頑張ろうと思える。劇場やライブ会場にいるその非日常的な時間だけが楽しく色づくんじゃなくて、就活とか仕事とか、そういう灰色にヒリヒリした毎日の暮らしを歯を食いしばってやっていけるように息を吹き込んでくれる。推し、にかわるもっともっと情熱的な言葉を見つけたいくらいだ。

彼女がアクターとして活躍して姿を見せ続けてくれることそのものが、骨や心臓が震えるほどに感情に火をつけると久しぶりに身体が思い出した。カーテンコールで役の抜けた彼女が満面の笑顔を浮かべてほっぺたをくしゃくしゃにしているのを見た途端、長い長い年月やこれまでの途方もない軌跡や、いろんなものが雪解けのようにあふれてもうたまらなくなった。

コロナ対策のためにたくさんのルールが増やされて、それでも大勢の観客と心地よいさざめきに埋め尽くされた劇場で、そういう気持ちを久々に思い起こせてとても嬉しい。臙脂色のフカフカの椅子とか、幕間に緞帳のむこうからこぼれてくるオケの音合わせとか、あの空間を形成するすべてのパーツをもれなく愛してる。カーテンコールの拍手で手がじんじん痺れる感触すら愛おしいね。一緒に来てくれた恋人に観劇中の顔面の一部始終をだいたい見られていたので、人としての尊厳が数パーセントどっかにいったけどなにも問題はないです。そんな春の日。