いぬごや

よくはたらくいぬです

罪のバタースコッチシナモンパイ

取り返しのつかないひときれ

存在はもちろん知りつつも、実はやったことがなかったゲーム『UNDERTALE』をプレイした。その気になればモンスターを一切倒さず平和にクリアできるし、逆に討伐のかぎりを尽くすと残酷なシナリオが見られる…というのは前情報で知っていたけど、色んなゲームの手癖でついモブ敵をどんどん倒してレベリングしてしまう。でも、地底世界に落ちてきた主人公を保護してくれたキャラクターや、序盤の道中に現れる憎めないガイコツを倒したとき、一瞬喜んで安堵したのも束の間、その姿が塵や砂嵐みたいにサラサラと消えていって「殺してしまった」と青ざめた。

RPGにおける「倒す」というのはすごく便利でまろやかな言葉で、あくまで戦闘不能にするだけのように感覚を麻痺させてくるけど、このゲームだと実際に殺してしまったことになる。主人公は非力な人間の子どもで、ぼうきれやこげたフライパンしか持っていないのに。

私はゲームの食べ物アイテムが大好きで、よくポケットやカバンをぱんぱんにしながら収集して楽しんでいる。とくに、かつてMOTHER2に出てきた食べ物がひとつ残さず好きだった。現実世界でも食べられるポテトフライやバターロールは実物の何倍も魅力的に思えたし(ケチャップやタバスコの“あじつけこもの”を使うのもいい)、えんそくランチのお弁当とお子様ランチのいいとこ取りみたいなネーミングだってにくい。まめのコロッケ、コンガリくしやき、サマーズふうパスタ、やぎバターがゆ…あたりは文字を見ただけでたまらなくなる。旅情緒にあふれる料理をお土産のように集めてまわった、楽しい記憶ばかりだ。

UNDERTALEにももちろん回復用の食べ物アイテムがある。でも、どこか全体的にうしろめたい。

▼すてられたキッシュ
こころに キズをおった ほうれんそうのキッシュ。

▼ホットドッグ…?
にくは 「ウォーターソーセージ」で だいよう されている。

▼ジャンクフード
おそらく どこかに すててあった たべもの。

この、なんともいえない居心地の悪さ。「きゅうじつの おやつに ぴったりのスイーツ」だという爽やかなサンデーサンデーや「ぼうつきのアイス。ぼうには ほっこりするひとことが かいてある」らしいナイスクリームなんかが逆に浮いてしょうがない。カップめんやうちゅうしょくあたりが落ち着きどころ。モンスターの地底世界だから全体的にじめっとせざるを得ないのかな…という地理的な事情のうえに、影を落とす極めつけの料理がある。

取り返しのつかないことになるきっかけ、最初のひとりのキャラクターが主人公のために焼いてくれるバタースコッチシナモンパイ。ほかのラインナップとは一線を画すスイートで家庭的なこのパイは、一度しか手に入らないうえに食べると体力が全回復する。過ちを犯したあともずっとアイテム欄の先頭に鎮座して、罪の象徴みたいに温かく輝いては良心をめった刺しにしてくる。よく考えれば再び手に入りっこないとわかりそうなものなのに(自分が殺してしまったんだから)、そうとは知らずさして重要ではない場面でパッと消費してしまい、あとからじくじくと後悔した。

最後にここで罪悪感にとどめを刺される

MOTHER2では、ゲームのはじめに主人公の名前とかとあわせて「すきなこんだて」を聞かれる。たいてい名前以上に悩んだすえに「オムライス」か「えびフライ」と答えているけど、これを今度「バタースコッチシナモンパイ」にして償いを…と思ったものの、たしか文字数上限は6文字だった。緑ゆたかなオネットにそんな罪を持ち込んじゃいけない。