いぬごや

よくはたらくいぬです

夏の気配とラムをのむ夜

f:id:mogmog89:20200505133518j:plain
組み立て前に一度途方に暮れた図

注文したデスクとイスを、説明書をにらみながら缶ビール片手に組み立てる。会社から持って帰ってきたモニターとノートパソコンを繋いでデュアルディスプレイの設定をし直す。ベッドの読書灯に使っていたクランプランプ(響きがかわいい)をデスクランプに転職させて、花瓶やシロクマやラジオを置く。
家のすみ、観葉植物の大きな鉢の隣に慌ててつくった急ごしらえの仕事場で、在宅勤務をし始めてから約半月経った。管理職一年生の自分は課のみんなより半月遅れて巣ごもりライターの仲間入りをしたけれど、これがまあ寂しくもなかなかおもしろい。前職では撮影現場を駆けまわっていたし、人と喋って対面で仕事をするのが好きすぎるのもあって、こんな機会でもない限り若いうちに在宅勤務をすることなんてなかっただろうな。毎日不思議な気分で家でひとり働いているけれど、連休明けに入社してくる新人研修のために一旦オフィスに戻ることになったので、ここ半月で一度かたちになった在宅ルーティン的なのを書いとこうかなと思った。めずらしい人生経験として。今もこれを仕事用のデスクで書いているけれど、開け放った窓からするする入ってくる風がすっかり夏の質感で気持ちいい。

9:00 起床~散歩

オフィス勤務時より30分ほど遅い9時ごろに起きる。シャツとガウチョパンツのゆるい格好に着替えて、窓をすべて開け放って、電気ケトルのスイッチを入れてから顔を洗いにいく。髪がすっかり伸びてきた。会社にいくときはいつも気持ち程度に巻いていたから、今くらいは休ませてやろうなという気持ちでヘアオイルを馴染ませて軽くブローだけ。トルコ石の飾りがついたヘアゴムでたまにポニーテールにする。化粧水をつけてコンタクトを入れてと自分に構っているうちに電気ケトルのお湯が沸くので、大きなポットでお茶を淹れる。なんとなくコーヒーを控えたい気分なのでだいたいほうじ茶か蕎麦茶。味がよく出るまで一旦フタをしてポットを放置してから、ゴミの日はゴミを出しにいく。ついでに晴れていたら10分くらい近所を散歩。往復するのもおもしろくないので、大きな川沿いを歩ける一周のコースがなんとなく定番になった。川面に目を細めたり(眩しいの苦手)散歩中のいぬを眺めたりして、帰宅。ごはんを作る。

9:15 朝食

いつもは会社に着いてからデスクで持参のおにぎりなどを食べていたので、平日に家で朝食を摂ると脳が一瞬混乱してて愉快だな~といまだに思う。魚焼きグリルで焼いたトースト、果物、冷たいカフェオレ。トーストはチーズトーストかバタートースト。果物はバナナかオレンジ。作り置きのスープとかがあったら温めてマグ一杯のむ。

f:id:mogmog89:20200505145514j:plain
その日の流れを考えつつぼんやりたべる

だいたいテレビのニュースを流し見しながら食べるけど、コロナ関連の朝のワイドショーに辟易してきたのでEテレをつけることも。片手間でマグに水をくんで植物たちにやる。フィカスベンガレンシスには1日置きにマグ2杯、イチジクとオリーブには毎日マグ1杯、セロウムには週に一度マグ半分。ベランダで葉っぱに霧吹きをしてやりながらぼんやり陽射しにあたる。このへんでだいたい9時半過ぎ。のろのろ仕事の支度をはじめる。

f:id:mogmog89:20200505145835j:plain
植物はかわいくて生きててえらい

9:30 始業準備

テレビを切って、仕事用ではない私物のノートパソコンでなにか音楽を流す。YouTubeで「lo-fi hiphop」と調べて出てきたやつや、映画のサントラでつくったプレイリストを選ぶことが多い。サントラのときは『ムーンライト』『君の名前で僕を呼んで』『キャロル』のループ。たまにラジオのTokyo FMをつけることもある。ポットで濃いめに淹れたお茶のマグと、新しくつくり直した冷たいカフェオレのマグを両手に持ってデスクにつく。始業は10時。それまでに皆の進捗確認とか朝の挨拶とかそういうのをやる。うちの課のもうひとりの管理職氏は朝に弱いので、毎朝のもろもろは自分の担当。
前日分の全員の日報を読んで、各々の今日〆切案件が何本あるか、自分の添削担当ライターの原稿が何時くらいに上がってくるかをざっと確認。毎日17時に〆切がもうけられていて、皆だいたい毎日1~2本の案件を書いては放流してを繰り返している。前日までの課全体のタスク消化状況を報告して、雑談チャットグループに朝の挨拶。「おはようございます~」から始まるぬるい連絡は、課の在宅勤務が始まってみんなの顔を見られなくなった日から勝手に始めた。とくに真面目な話はせず、今日は天気がいいから窓を開けるといいよとか、リモート飯ってみんなどうしてる?とか、眼精疲労がきついときは蒸しタオルをあてると気持ちいいよとか、そういう内容。コメント欄でちょっと雑談して「では今日もやってゆきましょう」で締めて、始業。

10:00 始業

だいたい昼過ぎに当日提出案件の添削原稿が部下ちゃんたちから上がってくるので、それまで自分の仕事をする…としたいところだけど、だいたい相談を受けたりなんだりしているうちに爆速で時間が経つ。サイト構成が難しい案件について電話で話しながらあれこれ一緒に考えたり、ディレクターからたまに飛んでくる薬事法とか景表法がらみの質問に答えたり、前夜にだいたい書いておいた案件を仕上げたり。電話中におとなしくするのが下手なので、くるくる回る椅子を買っておいて心からよかった。
12~13時頃に添削原稿がちらほら上がってくる。それまでに自分の記事をさっさと書き終えておいて、WordPressにテキストを流し込む。添削を始めたら一旦音楽を切って黙々と。日に添削する原稿は3~5本くらい。誤字脱字チェックは校正フローに任せて、文章の繋ぎがきれいかどうか、お客さんからの要望などなど要件定義を満たしているか、ライティングの癖が出てしまっていないかとかをパーッと見る。15時くらいまでに戻しきって、自分の案件を提出して、遅めのお昼ごはん。Slackのステータスを「休憩中」にするとおにぎりのアイコンが出てきてかわいい。この頃には朝たくさん作ったポットのお茶がもう空になっている。

15:00 休憩

とはいえ席を完全に離れるのは不安なワーカホリックなので、調理時間はごく短めに。作り置きのスープ類と炭水化物で済ませる。サバ缶をトマトやキャベツで適当に煮込んだスープなんかを鍋いっぱいに作っておいて、昼にもりもり食らうことが多い。野菜を食べているぞ~という自己肯定感がみるみるうちに満ちるよ。talknoteやChatworkの通知音量を爆音にしておいて、しばしベッドでごろごろしたりベランダの植物を眺めたり好きに過ごす。恋人の仕事のシフト状況に合わせてちょっとLINEを送ったり、もらった手紙を読み返したりみたいなことで英気を養いつつ、電気ケトルでお湯を沸かしてお茶を淹れ直す。

f:id:mogmog89:20200505153457j:plain
窓辺のワンカップ花瓶を眺めたりする

16:00 仕事再開

休憩後は音楽やラジオの局を変える。みんなが無事に〆切をまもって案件を羽ばたかせていくのを見届けながら、自分の仕事を。プレイングマネージャーなのでそこまで大量の案件を持っているわけではないけれど、その分よりすぐりの畜生案件と日々どつきあっている。合間でディレクターやコーダーと別件の連絡をとりながらマイペースにパタパタと執筆。会社ではデスクトップパソコンに薄いパンタグラフキーボードを使っていて、それはそれで快適だったけれどやっぱりノートパソコンのほうが指の運びがラクでいい。ひとつの案件につきだいたい4時間前後かかるので、調子がよければ書き終えてから終業。次の日のタスクが詰まっていたら残業して書き上げる。気分が乗らなくて翌日に余裕があれば、明日の私に任せて一旦おしまいに。
ゆっくり自分の仕事をできる夕方から夜にかけての時間が結構好き。会社にいるときは上司からの不要不急の構いにエヘヘと付き合ったり、喫煙所でスモーカー同士管を巻いたりしていたけど、そういうのも嫌いじゃなかった。そういえば結構長いこと煙草を吸っていない。制作部にはたまたまピース6mm愛飲者ばかり揃っていて、背後を人が歩いたときに時々苦いバニラが控えめに香るのが好き。コーヒーサーバーと冷蔵庫にごく近い席にいたので、コーヒーを淹れにくるベテランコーダーのおじいちゃんや、冷蔵庫からマウントレーニアを取りに来るディレクターのお姉さまと少しお喋りをするのもこの時間帯が多かった。それを想って、在宅の寂しさを紛らわせるために好きなライオンコーヒーを淹れる。夕方だけコーヒーを飲んでもいいルール。

19:30 終業~夕飯など

よほどとんでもない畜生案件を抱えていない限り、なんとか19時台に上がれるようにしている。みんなが日報を書いて切り上げていくのをある程度見送って、残業が長引きそうなライターにちょっと声をかけて、自分も日報を書いて終業。
在宅勤務最大の喜びは、終業後たちまちお風呂に入れること。すぐにお湯をためて、夕飯の前にお風呂に浸かる。スマホを持ち込まずに長めに目をつむって眼精疲労や肩こりを癒す。オフィス勤務時の終業後は、上司と社のバーで生ビール(つぎたて!)を一杯飲んでから帰ることが多かった。そういう日々はいつ戻ってくるのかなぁとか考えながら、お風呂からあがってごはんをつくる。ゼロからおかずを用意するときもあるし、作り置きがあればそれを温める。テレビを観たり、たまに友達や恋人とSkypeを繋ぎながら夕飯。

f:id:mogmog89:20200505160633j:plain
この日は作り置きのハンバーグ。うまくてえらい

ごはんが済んだら家事をしたり、肩甲骨まわりをほぐすストレッチをしたり、音楽を聴きながら夜風にあたってぼんやりしたり。アテがあれば少しビールを飲む。これまでビールといえばサッポロ黒ラベルと決めていたけれど、最近ふいに淡麗グリーンラベルのうまさに気付いた。軽やかで香りがよくてするする飲める。恋人に会いたいなぁとか思いながら機嫌よく過ごす。人恋しいのを理由に情緒がグチャグチャになるくらい筋金入りの人間好きなので、夜はぼんやりと寂しい。たぶん散歩の回数を減らされたいぬとかと同じ精神状況。なのでたまに眠る前に少し出歩く。白いクチナシの花があふれるほど咲いている家の前を通って、肺に染みわたるような甘い匂いを冷えた夜気と一緒に吸い込むのが好き。夜の住宅街は驚くほど人がいない。

23:30 ふとんに入る

生まれながらに宵っ張りなので、これまでずっと1時や2時に眠っていたけれど、在宅になってからは体内時計を整えるために日付が変わらないうちに寝支度を整えるようにした。全宇宙から褒められたい。仕事のことをずっと考えてしまわないように、眠る前に少し本や漫画を読む。新作だと没頭してしまうからたいていお気に入りの古いものを選ぶ。西村しのぶの『一緒に遭難したいひと』『砂とアイリス』、江國香織の『やわらかなレタス』あたりが適任。


こんなふうに毎日を繰り返しているうちに、朝開け放った窓から入ってくる風が春のそれから初夏のものへと変わった。ある朝起きて窓を開けた瞬間、あ、今日から変わったな、と明確にラインがわかるのがおもしろかった。さらさらと部屋の中を駆けていくつめたい清流のような春の風がとても好きだけど、体内にゆっくり染みわたっていく夏の風の輪郭をかわいがるのも嫌いじゃないなと思い出す。連休に入って、恋人とSkypeを繋いで一緒に夕飯を食べた。氷をたっぷり入れてコーラで割ったラムを飲んで、恋人の声を聴きながら初夏の気配を帯びた夜風にあたるのはひどく気持ちよくて、少し寂しくて、でも悪くない。
今夜は昨日つくった手羽元の煮物の残りを温め直して食べる。手羽元・大根・ゆで卵をはちみつと醤油でとろとろに煮たおいしいものが台所にある、そう思うだけで結構幸せなので、脳のつくりが単純でよかった。